「 『マオ』が伝える中国の巨悪 」
『週刊新潮』 '06年4月20日号
日本ルネッサンス 第211回
『マオ 誰も知らなかった毛沢東』(ユン・チアン、ジョン・ハリデイ 講談社)を読めば、中国共産党と中国のおぞましさが一段と明確に見えてくる。
著者のユン・チアン氏は15年前『ワイルド・スワン』で文化大革命の背後にあった毛沢東、周恩来らの冷酷な権力闘争を丁寧に描いた。日本の中国専門家や大手メディアが賛美した文革が、実は血塗られた内戦にすぎなかったことを彼女は実証した。
『マオ』は歴史の一コマである文革の検証にとどまらず、毛沢東の生い立ち、貧者や農民への無関心、中国共産党の設立にかかわることなく、実は遅れて入党していた可能性、にもかかわらず、なぜ力をつけたか、国民党、日本、ソ連をいかに利用し操ったかを含めて描いている。
毛は7,000万人以上を死に追いやったとされるが、このおぞましい人物は農民らの「大量死に実用的な利点まで見出し」「死はけっこうなことだ。土地が肥える」(1958年12月9日)と語った。その結果「農民は死人を埋葬した上に作物を植えるよう命じられた。これは農民に大きな精神的苦痛をもたらした」(下巻191ページ)。
かつてエドガー・スノーは毛を英雄視し、“痩せたリンカーン”に譬えたが、毛の仮面はこれまでにも李志綏(リチスイ)氏の『毛沢東の私生活』〈上下 文藝春秋)、北海閑人氏の『中国がひた隠す毛沢東の真実』(草思社)などによって剥がされてきた。他方、中国政府は躍起になって中国共産党のイメージを損ねるこうした書物の影響を打ち消そうとした。
毛と中国共産党の真の姿は、波間に浮かぶ漂流物のように、上部の一部のみ姿を見せるのだが、それも波に洗われ、見えたと思うと私たちの視界から遮られてきた。しかしチアン氏はそれらを統合した全体像を描き出し、わかり易い形で私たちの眼前に置いた。十余年の歳月と数百人への取材、膨大な資料の収集と分析の結果として、『マオ』は強い説得力を持つ。
要職にいた“スパイ”
同書のなかで、しかし、日本は必ずしも好意的に扱われているわけではない。にもかかわらず、同書は日本と日本人にとって、一方的に日本を加害者と断じた戦後歴史観を根底から変える貴重な一冊となる。その柱は二つと考えてよいだろう。
第一点は1928年6月の張作霖爆殺事件である。日本軍の犯行とされてきた同事件は、実はロシアが日本軍の犯行に見せかけて行った謀略作戦だというのだ。第二点は1937年7月の盧溝橋事件以後の動きである。中国側がおこした盧溝橋事件が日本政府の「事件不拡大」方針及び阡」介石国民党政権の慎重姿勢にもかかわらず、短期間に日中全面戦争に拡大した背景に、中国共産党のスパイの働きがあったという。
指摘が正しいとすれば、日中戦争の歴史は全面的に書き直さなければならない。この驚くべき指摘が、日本に必ずしも好意的ではないと思われるチアン氏によってなされたことも、また、驚きである。
『マオ』の中で氏は、日本を悪者とするステレオタイプの視点から脱けきれていない。たとえば南京事件について、“30万人虐殺”説が検証済みの事実であるかのような前提で書いている。その冷たい視線で日本を見る著者が、十余年間の調査と取材の果てに得た結論であるからこそ、張作霖爆殺はロシアの仕業、日中全面戦争は日本軍の暴走よりも中国共産党の策略だったとの指摘は、より重要な意味を持つのである。
詳細は『マオ』を読んで下さればいいと思うが、同書上巻19章は特に圧巻である。日中を全面戦争に誘い込み、追いこむための中国共産党のスパイ、張治中の動きが時系列で具体的に描かれている。
同書はまた、張の回想録から次のように引用した。国民党の南京上海防衛隊の司令官だった1925年当時、張は「中国共産党に心から共鳴し(中略)入党したいと考え、周恩来氏に申し出た」。だが、周恩来は張に、国民党内にとどまり、ひそかに中国共産党と共闘するよう要請したそうだ。こうして中国共産党のスパイとなった張治中は、敵将、阡」介石の懐刀としての地位を占め続けた。
張こそが盧溝橋事件を利用して上海事変をおこし、日中対立を激化させたとし、チアン氏は彼を「史上最も重要な働きをしたスパイ」「事実上たった一人で歴史の方向を変えた可能性が大きい」と形容する。
そして毛は日本軍進撃を大歓迎した。「抗日戦争は日本の力を利用して阡」介石を滅ぼすチャンスだった」からだとチアン氏は書く。訪中し過去を謝罪した日本の政治家らへの毛のこんな言葉も氏は引用している。
「いや、日本軍閥にむしろ感謝したいくらいですよ」「(日本軍が中国を広く占領してくれなかったら、国民党に勝てないために)われわれは現在もまだ山の中にいたでしょう」
祖国への裏切りは暴かれる
北村稔氏の『「南京事件」の探究』や鈴木明氏の『新「南京大虐殺」のまぼろし』などを紹介しつつ、日本軍による大虐殺は実は存在しなかったのだと言っても、多くの人は信じない。頭のなかに、日本こそが日中戦争をひきおこし拡大した張本人で、ひたすら日本が悪いという歴史観に染っているからだ。『マオ』はそんな戦後の日本人、そして全世界の人々に、上のような既成の歴史観を一度取り払い、新しく発見された多くの事実に基づいて歴史を見直す必要性を突きつけている。
『マオ』のもたらしたもうひとつの衝撃は、祖国を売るスパイ行為は、必ず、いつか、白日の下に晒されるということだ。張治中はスパイだったことを誇りとしているため、正体が明らかにされるのは本望だろう。が、その他の人々はどうか。中国のために働く日本人はどうか。見返りゆえか、握られた弱味ゆえか。祖国を裏切った人々は、未来永劫その事実を伏せておきたいことだろう。
しかし、チアン氏の著書からも明白なように、国家の秘密が永遠に保たれる時代ではなくなったのだ。
氏の著書に強い説得力を与えているのは、丁寧な取材に加えて、彼女が使用した膨大なロシア側の資料である。決して出てくるとは思えなかった旧ソ連時代の機密情報が、ソ連崩壊以降大量に放出されたのは周知のとおりだ。また、西側諸国は情報公開によって、機密書類でさえも30年、50年という時間を置いて公開し始めた。人類の歴史上、今私たちははじめて、この種の機密情報の開示を体験しているのだ。中国もいつか必ずロシアのように崩壊し、大量の中国共産党資料と機密情報が出てくるだろう。そのときには、中国に心を売り、中国のために働くような人々がいるとすれば、その実態も自ずと暴かれるだろう。祖国を裏切り他国を利する行為は、歴史が見逃さない時代に、私たちは立っているのだ。
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